餌を与えられたサル

人類学者のジェーン・グドールは、チンパンジーが道具を使うこと(草の茎を使いアリを捕る行動)を発見し、道具の使用はヒトだけだと言われていた定説を覆したことで有名です。実験室という作られた空間ではなく、野生のチンパンジーの群れの中に入り込んで観察を続けるというという彼女の研究方法(フィールドワーク)は、敬意とともに、学会に大きな影響をもたらしたそうです。

彼女のもうひとつの発見が、チンパンジーのカニバリズムの研究です。ヒトに最も近い遺伝子を持つチンパンジーが群れの中で起こす仲間同士の殺しあいや子殺しの事実は、戦争をする動物としてのヒトの遺伝子につながっているのだと解釈されました。

ところが最近になって、この残虐性は、“ジェーンが研究対象としている群れでのみ起こる特異な現象”であることがわかってきたそうです。他の群れでは、仲間同士のこのような残虐な行為はほとんど観察されないというのです。

では、何がジェーンのチンパンジー達に残虐な行為を起こさせたのでしょうか。ジェーンの群れと他の野生の群れとの違いは、「餌付けされていたこと」だったそうです。ジェーンは、野生のチンパンジーの群れに入り込むために、バナナを与えていたのです。

豊富とはいえない森の資源で生きてきた野生のチンパンジーの群れでは、食べものを分け与える行為がしばしば観察されるそうです。それに対して、餌付けされた集団では、協調が崩れ、殺しあいやカニバリズムにまで駆り立てる“何か”が働くのだと考えられています。

餌を与えられたももうひとつの群れ。現実のヒト社会も、糧がどこか上方から降ってくる感覚の集団となっているのではないでしょうか。

フランス・ドゥ・ヴァールは「共感の時代へ」の中で、ヒトは本来 “Empathy(共感)”によって社会を構成する動物であると主張しています。そして、この特性はヒト特有のものではなく他の動物にも見ることができ、進化の過程に深く根ざした根本的な能力であることを、多くの事例や研究成果の裏付けをもとに説いています。そして、「それならば、最も高度な動物であるヒノの社会は、「共感」をもとに組み立てられるべきである」と主張しています。

今の社会で求められていることは、降ってくる糧を奪い取るという競争原理の中で勝ち抜く知恵ではなく、「糧(価値)を自ら生み出す集団」という感覚かもしれません。

 

 

yasushi_tanaka

有限会社ケイプラス・ソリューションズ代表,東京工業大学 特任准教授,大阪芸術大学 客員教授,奈良先端科学技術大学院大学 非常勤講師,博士(工学),CMM正式リードアセッサー(非更新 笑)

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