「土地と文化に対する感情と責任があるのです」

横浜美術館で開催されている「蔡國強展:帰去来」を観に行きました.

この展覧会は,2015.7.11から2015.10.18まで開催されているそうです.
会場の入り口(チケットコントロールの手前なので写真可)で来場者を待ち受けていたのは,今回の展覧会のために制作された「夜桜」という巨大な作品でした(写真1).

夜桜
写真1. 夜桜

また,本展覧会のポスターに掲載されている作品は,「壁撞き」という作品です(写真2).この作品は,99体のオオカミがガラスでできた壁に突き当たっては戻りを繰り返している様を表現した作品でした.説明では99という数字は道教で「永遠」を示しており,ガラス,すなわち,見えざる壁に挑み続けるもそれを超えられない永遠を表象しているようでした.

蔡國強展:帰去来ポスター
写真2. 蔡國強展:帰去来ポスター

 

この展覧会では「夜桜」含め8点の展示がありました,そのうちの5点は,今回の日本での展示のために,会場である横浜美術館で製作された作品だそうです.
また,「春夏秋冬」という作品は,驚くほど繊細な白磁が素材として使われていましたが,これは,彼の故郷である福建省のもの,そして,「壁撞き」の作品にあったガラスの壁は,かつてのベルリンの壁の高さと同じだそうです.

会場では,横浜美術館での製作風景を含め,それぞれの地での文化や社会を強く意識してきた彼の作品の解説とインタビューのビデオが流れていました.
私は,火薬を使った彼のインスタレーションの迫力に見入っていましたが,彼がビデオの中で語っていた言葉が耳を通り抜けた瞬間,脳天を直撃されたような気持ちになり,その言葉を再度確認するために,ビデオを2回観ました.

彼は,
「土地と文化に対する感情と責任があるのです」
と静かに,そして笑顔で語っていました.

彼は日本に留学していた経験があるため,インタビューは少々中国訛りのある日本語で語っていました.そのためか,主語が聞き取れませんでした.おそらく主語は「私は」なのだろうと思うのですが,私には,「私達には」に聞こえました.

「私達には,土地と文化に対する感情と責任があるのです」

私達は,私達の土地と文化に対して,どのような感情を抱いてきたのでしょうか.そして,それらに対して「責任がある」と胸を張って,笑顔で言えるのでしょうか.

会場を出ると,台風による影響か,重く厚い雲が空を覆っていました.

 

 

 

著作者性が抱える自己矛盾

東京オリンピックのロゴに関して,盗用か否かが問題となっている.
http://www.sankei.com/world/news/150807/wor1508070008-n1.html

グーテンベルクが印刷技術を発明する以前,人々は,それが誰によって書かれたものかに関心を払わなかった.創作は社会的な奉仕でもあり,創作物に触れるためには,多大なコストを払わなければならなかった.

コピーライトという概念は,複製技術と消費ルートとの発展によって生まれた.「それは私のものである」という所有の主張である.

その複製技術は,コピー機の発明を経て,今では,音楽でも絵画でもプログラムでも,マッシュアップすることで即時的に創作できるようになった.

このように,グーテンベルクから生まれた複製技術がコンピュータの出現によって著しく発達した結果,人々は,”私的努力によって創作することが重要なことだ”とは考えなくなった.創作は個人の社会的奉仕からチームによる活動,すなわち,既存のアイディアのマッシュアップという仕事に引き渡された.

コピーライトという所有の主張は,それを生み出した複製(マッシュアップ)の技術の発展によって,創作における著作者性,すなわちオリジナリティーを否定するという自己矛盾を抱えている.

ところで,「本当のオリジナリティ」というものは,はたしてあるのだろうか.本当にオリジナルな知的活動があるとすれば,それは,一般には,格子に施錠された特定の病室の中に見出されるものであろう.

今,ここに書いている文章も,完全なオリジナルな考えではなく,所詮は”誰かの考え”の寄せ集めに過ぎない.脳は社会的なものである.誰かの考えに影響を受けずにはいられない,という以前に,人は積極的にお互いの考えをコラボレーションしようとしているのである.人々は,社会を維持するために,協調し,お互いが信頼できるように,経済活動というものを発明し,ミラーニューロンは発達してきた.

しかし,社会的なイノベーションの多くは,特異な思考から生まれ,パラダイムを変えてきた.社会というシステムが停滞しないためには(システムの停滞とは,すなわち”死”である),変化が必須の条件である.

コピーライトという”所有の主張”は,社会システムの停滞を加速しているのかもしれない.