参加型デザイン(SS2015 WG-SS ポジションペーパー )

6月15日〜17日に行われるソフトウェアシンポジウム2015(SS2015)のワーキンググループ-SS(ソフトウェアと社会)へのポジションペーパーを書いたので掲載します(おそらく,WG参加メンバのみへの公開となるため).

今年は,1999 年にドイツで開かれたワークショップの報告書 “Social Thinking – Software Practice” を題材に,「第一部 “Deconstracting” 所収の 4 つの論文を読み,その中で 自分がもっとも 興味を惹かれた論文についての感想または批評を Position Statement として事前に提出すること」ということで,James M. Nyce and Gail Baderの”On Foundational Categories in Software Development”を読んで,感想と問題提起(といっても,議論の視点のレベルですが)を簡単に書き留めました.


On Foundational Categories in Software Development
James M. Nyce and Gail Bader

この論文で取り上げている参加型デザイン(participatory design: PD)は,その発祥を1960年代の北欧に遡るようです.
マネジメント層と現場で働く人たちの立場が大きく乖離し,身分の差が著しかったスカンジナビア半島で起こった労働者運動がきっかけとなり,利害関係者を平等に巻き込みながら合意形成を図る,平等主義と民主主義とを重視する手法が模索され、それが参加型デザインと呼ばれたそうです。
この北欧での参加型デザインと一見すると似ている活動として,北米での,User Experienceアプローチがあります.
北米のモチベーションは北欧とは違い,80年代に入って,コンピュータの民生化(AppleのMacがきっかけ)に伴い,商品としてのソフトウェアをより多く得るための手法として生まれました.
ユーザが納得する商品を作りたい,それならば,消費者ををデザインの場に招いてワークショップなどを行い,一緒にデザインをしていったらいいのではないか,というアプローチです.
昨今,日本でも,「デザイン思考」と称するクリアイティブワークショップが産官学をあげて流行(文化的な背景はなく,北米の西海岸での第?次起業ブームの一周遅れの,あくまでも「流行」)のようです.

仕事柄,「参加型デザイン」に近いところにいるのですが,あらためて本論文を読んで,「問題を解く」ということの,もしかすると,かなり根本的・本質的な視点について,もう一度,きちんと考えなくてはいけないのではないか,と思いました.
「我々は,何のために,何を解こうとしているのか.何を解くべきなのか.解くことの社会的な意味は何か」ということが,本論文でも(結構しつこく)述べているように,社会・文化的な価値観や,当該文化でのコミュニケーションのあり方に大きく依存しているということです.
とすれば,なおさら,「我々(日本人)は,何のために,何を解こうとしているのか.何を解くべきなのか.解くことの社会的な意味は何か」を考える必要があると思いました.

受託開発では,解くべき「問い」はクライアントが与えてくれ,開発する側は,問いに対する「正解」を出せば良いという構図ですが,「定義可能な解くべき問いが存在しているという前提」,そして,それに対して「正解」を求めるということ自体意味が無いということは,誰もがわかっていることだと思います.
その一方で,弁証法的アプローチは,その背景となる社会・文化,そこに属する人たちのコミュニケーションのあり方に依存するというのは,とても重要な視点ではないかと思いました.

参加型デザインが成功するための条件として,公平な議論を可能とする文化的下地の必要性があると本論文では述べており,北欧の社会文化基盤が,それを可能としているそうです.
一方で,北米の文化は,売るために相手を説き伏せるための議論が価値があり,「真実(事実ではなく)」は何か,「言葉よりも実行で示すこと」に対する価値観(インディージョーンズを思い出しました)が北欧の価値観と大きく対比すると述べられています.
では,日本の価値観は何か?

可能性が感じられた事例として,エスノグラフィー手法によって事実(「真実」では無い)をみんなのものにする,ということが,公平な議論による北欧型の参加型デザインを成功に導く方法として興味を持ちました.

 

以上

 

 

yasushi_tanaka

有限会社ケイプラス・ソリューションズ代表,東京工業大学 特任准教授,大阪芸術大学 客員教授,奈良先端科学技術大学院大学 非常勤講師,博士(工学),CMM正式リードアセッサー(非更新 笑)

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