構造視点から見たプロセスの改善

構造視点から見たプロセスの改善について、質問を受けました。以下、その回答です。ではどうぞ。

<はじめに>
まず、プロセスの「構造上の課題」というのは、ノード間の入出力の関係から見た課題です。
スループットなどの時間的な課題ではなく、”構造的に見て”の話しです。ノード間の関係を示す矢印は時間ではなく、構造上の関係を示すことになります。
つまり、「構造上の課題」とは、「構造視点からプロセスの改善課題を検討する」ということです(対象の仕組みを理解するということでもあります)。「構造”を”見る」のではなく、「構造”から”考える」ということです。
構造から、その意味を考えて改善課題を発見するためには、プロセスのゴールから考える必要があります。

(例1プロセス)
input成果物[A]→output成果物[C]
input成果物[B]

例1プロセスにおいて、Cを作ることがゴールであれば、A、BはCを生産するための手段です(「ゴール」とは、”社会的に見て意味のある実体”のことです)。
「(A, B)→C」の構造を「技術」と呼びます。技術が変わると、Cを作るためにA’やB’、さらには他の入力、もしくは、より少ない入力実体との構造になります。

例1プロセスで、今現在、AとBからCが確かに作られているのであれば、「そこには改善課題は無い」という人もいますし、改善の余地があるという人もいます。
「AとBからCが作られている」のは事実なのですから、Cが”確かにそこに存在している”という結果だけから見れば”問題は無い”という主張もわかります。
これらを理解するには、生産的過程におけるプロセスの改善の意味を考える必要があります。

<生産的過程とは>
例1プロセスは、「CをつくるためにAとBが必要」ということですが、生産的過程においては、これを、
C=A+B (もしくは、A+B=C)
と記述するのは、間違いです。
つまり、C=A+B は等式ですので、右辺と左辺は「同じ」ということです。これでは何も生産されません。

生産的過程は等式ではなく、熱力学的な過程です。
状態aを持つAと状態bを持つBに、エネルギーを投入してさらに高い状態cであるCを生産するということです。
つまり、状態a, b,cは、次の関係でなければ「生産過程」の意味がありません。
a+b<c

ここで「状態」というのは、生産過程においては、社会的品質のことです。熱力学的に言うと、エントロピーのより低い状態(品質の高い状態)のことです。
つまり、(主に労働という)エネルギーによって(社会的に)より低いエントロピー状態のモノ(質的に高いモノ)を作る過程が、生産的活動です。
例えば、生体は、生命を維持するために、常に外部からエネルギーを摂り入れて、生体内の増大したエントロピーを体外に出し、生体システム自体のエントロピーの平衡状態を保っています。
これと同じように、社会というシステムは、労働によって社会全体のエントロピーの状態を保つことが、システムを維持するための条件となります(そうしないと、システムは死んで(エントロピーが増大して)しまいます)。

<プロセス改善の意味>
何故、プロセスは改善する必要があるかというと、目的は2つあります。
ひとつは、「プロセス(生産的過程)の安定性を高めること」です。これは、統計的擾乱に対する耐性を高めるということです。
そしてもうひとつは、「より高い品質のモノ(社会システムから見て、よりエントロピー品質の高いもの)を作ることができるようにするため」です。社会の成長過程では、社会システムから見て、よりエントロピー品質の高いものをアウトプットしていく必要があります(そのためには、より多くのエネルギーが必要となります)。

最初の目的である、「プロセスの安定性を高めること」の理由は、プロセスに潜むリスクが顕在化してしまうと、一気にエントロピーが増大してしまうからです。
そのため、例1プロセスの場合、AとBからCを作るという構造に潜むリスクを見つけることになります。
その際に必要な視点は、「AとBからCを作る」という視点ではなく、「Cとは何か」、「Cを作るとはどういうことか」をまず理解することです。
そのうえで、「そのためのに必要となるのはAとBとで良いのか」、「それぞれの入力のタイミングは現状で良いのか」といった評価をすることになります。

これを熱力学的に考えると、次のように」なります。
つまり、AもBも、あるエントロピー状態を持っています。
「AとBからCを作る」ためには、下記が必要となります。
・Aという状態の維持(固定化と状態の保持)
・Bという状態の維持(固定化と状態の保持)
・A、BからCを作るエントロピー差分に相当するエネルギーの投入
AやBの固定化と状態の保持に多くのエネルギーが必要な場合は、リスクが高くなります。
また、AやBの状態とCの状態の差が大きければ、投入するエネルギーは高くなり、その分のリスクも高くなります。
さらに、A、B以外に多くの入力が必要になると、それらの各Entityの状態の維持(固定化と状態の保持)リスクも高くなります。

上記の評価を行うには、「Cとは何か」、「Cを作るとはどういうことか」をまず理解する必要があります(Cが、最終成果物でない場合は、Cが次に何の入力であるかを理解する必要があります)。「Cとは何か」、「Cを作るとはどういうことか」とは、(Cがプロセスの最終成果物の場合は)Cを作るシステムの外部の系(組織や企業や顧客、社会)に対する意味を理解するということです。
そのうえで、「Aよりもエントロピー順位の高い状態のレベルのモノ(A’)で固定化(プロセス内で管理され共有される状態)をしてからCに投入した方が良い」とか、Cが中間成果物の場合には、「現在のAとBとから作られるCの状態では、手戻りが発生してしまう(つまり、Cが入力となる次のプロセスに対して、固定化と状態の保持リスクや、エントロピー差分リスクが大きくなる)」といった評価をすることになります。
より高い品質のモノを作る場合も、上記の評価方法と同様になります。

これらの評価のイメージは、ロッククライミングをする際の足がかりをどのようにとって行くかに似ています。A(右足)とB(左足)の足場からC(次に手をフックさせる位置)までの距離が遠ければ、リスクは高くなります。また、A、Bの足場がグラグラしているのであれば、足場自体のリスクが高いということです。そして、初心者のロッククライマーは、目先の足場にとりあえず足をかけてから、手を伸ばせる場所を探しますが、経験者は、ゴールから逆方向に見て、どう攻めるかの戦略を立ててから登りはじめます。

<To-beの設計の意味>
中間状態の固定化と状態の保持リスクの評価と、エントロピー差分による評価から改善課題が見つかります。しかし、改善課題がそのままTo-beになるわけではありません。To-beを考えるということは、ゴールから逆方向に見て、新しい方法を設計(Design)するということです。
“Design”の語源は、”de-sign”つまり「再記号化」であると言われているように、新しい方法の設計は、まったく新規に考えるのではありません。
現在の状態をもとに、そこで評価した改善課題を参考にして、再記述することです。
実は、この「To-beを継続的に考えること」は、システムを維持するための重要です。
システムは、外部環境の変化に対応して常に動的に平衡状態を保つように継続的に変化し続けることが必要です。システムは一旦固定化してしまうと不全を起こします(脳の機能の固定化による病気が鬱病です)。リスク観点や成長観点から見つけ出した改善課題をもとに、プロセスを設計し改善して行くことが、組織というシステムの維持には必要なのです。

 

 

 

 

yasushi_tanaka

有限会社ケイプラス・ソリューションズ代表,東京工業大学 特任准教授,大阪芸術大学 客員教授,奈良先端科学技術大学院大学 非常勤講師,博士(工学),CMM正式リードアセッサー(非更新 笑)

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