プロセスは技術として立ち現れる

蒸気機関の発明が産業革命を起こしたと言われるように、産業活動における最も劇的な変化は新しい技術の発明と生産ツールとによってもたらされると言われている。ところで、この理解は正しいのであろうか。
プロセスという考えかたは、今日のIT社会ではじめて議論の遡上にのぼったわけではなく、古くは、といってもかなり古く、時は200万年前の旧石器時代にまで遡る。そこでは何が行われていたのか、「人間の歴史」でイーリンが描写したマンモスの狩猟場面を引用してみよう。

『人間たちは、一群となってマンモスの後を追った。一本の槍ではなく、何十本という槍がその毛むくじゃらの脇腹を突き刺した。足も手も、何十本もあるもののような人間の群れは、マンモスを追った。そこで働いたものは、単に何十本という手だけではなく、何十本という頭だったのである。(中略)マンモスの重量をもってしたら人間をふみつぶすことなどは何でもなかった。が、人間たちはこの巨大な獣に打ち勝つために、大地もやっとそれに堪えているようなその重量を逆に利用したのであった。人間たちはマンモスを四方からとりかこんで草原に火をつけた。マンモスは輝く火のために目は狂い、毛は焼けこげて、ただもう火が追いつめる方向へかけ逃げた。が、その火は、人間たちの狡猾な考えによって、マンモスをまっ直ぐに沼地の方へ追って行った。沼地へ落ち込むと、マンモスは沼の上に立てられた石の像のように沈んでいった。マンモスは雷鳴のような吼え声で、大気を震わせながら、足を沼地から抜き出そうとして力んだ。が、そうやって体を動かす毎に沼地はますますマンモスを引き入れた。そうなれば人間たちは、もうマンモスを打ちのめすばかりであった。』

産業革命の起源に習えば、旧石器時代の技術は、槍や石斧ということになる。しかし、イリンの描写が活き活きと描き出しているのは何であろうか。マンモスを捕えるための一連のプロセスである。旧石器人たちは、マンモスを捕らえるためのプロセスを開発したのである。そして、開発したプロセスを実行に移すための手法として、すでに手にしていた火や石器の利用方法を考え、そしてその利用目的に従って、(すでに持っていたであろう)槍や石斧、そして松明などのツールの最適化を図ったのである。


産業革命に時を進めてみると、産業革命を起こした技術は蒸気機関ではなく、チャップリンが「モダン・タイムス」を通して描き出したように”分業による流れ作業”というプロセスなのである。そこでは生産プロセスが個々の労働者が遂行できる単純な作業単位に分割された。それによって、労働者は自分に与えられた単純作業だけを理解すればよくなった。その結果、人を入れ替え可能な部品として扱うことができるようになり、人件費を極限まで下げることができるようになったのである。つまり、新たな生産プロセスと資本主義の目的とが結びついたことが産業革命の本質であると考えられる。


ソフトウェア工学のレイヤーモデルが示すように、品質目標を達成するためには、まず、プロセスの設計が必要である。そして、プロセスを実行するために手法が考案され、手法の実行を支援するためのツールが開発される。ともすると、最上位にあるツールにのみ目がいってしまい、ツールがすなわち技術であると捕えられがちである。しかし、技術とはプロセス・手法・ツールの総体である。そして、技術の本質はプロセスにあり。プロセスは、意識的な適用を通して技術として実体化するのである。

 

yasushi_tanaka

有限会社ケイプラス・ソリューションズ代表,東京工業大学 特任准教授,大阪芸術大学 客員教授,奈良先端科学技術大学院大学 非常勤講師,博士(工学),CMM正式リードアセッサー(非更新 笑)

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