プロセスのモデル化が難しい理由

「活動の本質は”変化すること”であり、すべての活動をそのまま(タスクの視点で)描くことは非常に困難なのである。」Keen, 1997

企業のITシステムを中心とした業務改善を目的に、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)や、ビジネス・プロセス・モデリング(BPM)といった取り組みが、90年代からの流行語として今もなお続いている。ネット上で検索をするまでもなく、様々な研究者がこの問題に取り組み、また多くの書籍が刊行されている。彼らは、企業が顧客にもたらすべき価値と、それを実現するための企業内プロセス、そして企業内プロセスを支援し、実現するためのITシステムとをつなぐために、各人が各人なりの解釈をし取り組んでいる。ところが、実際のところ、長年の取り組みにも関わらず、明らかに成功したという事例を耳にすることが難しいのが現状である。

業務プロセス設計は、顧客視点から要求された品質目標に対して、どのように業務を進めたら経営ゴールを満足し、さらに経営リスクを低減できるかを設計することである。そして、業務プロセスを設計するためには、目に見えないプロセスを外在化、すなわちモデル化する必要がある。一方で、「ワークフローとしては定義することが難しいがビジネスにおいては無視できないプロセスが存在する」と言われるように、業務プロセスはモデル化すること自体に難しさがある。

Davenportが「組織の階層構造が、もっぱらある時刻の断面から責任の所在と報告関係をとらえようとするのに対して、プロセスの構造は、いかにして組織が価値を提供するかという動的な視点に立つ」と述べているように、プロセスのモデル化とは、価値の提供という目的に対して、組織を構成するリソースがどのように動的に変化するかを描くことである。ところが、システムの動的変化を記述しようとして、多くのモデル化手法が「ビジネスを”ある価値を持つものを生み出すことを目的としたアクティビティ(活動)の列”として見るという立場(ワークフロー的視座)」を持ってプロセスを記述しようとする誤った視点に陥ってしまっている。

Keenが「人間社会の営みの根幹は活動の調整である」と述べているように、活動は常に変化する。モダン・タイムスで描かれた固定化された活動は、人間性を阻害し生産性を引き下げる。変化、すなわち活動の調整こそが、人間の柔軟性の現れなのである。現在みられる、もしくは用いられているプロセスのモデル化方法のほとんどはタスク視点でのモデル化である。タスク視点では、プロセスを描くために、活動をいかに固定化してとらえて描くかという視点をとっている。そこでは、Keenの言うような、活動の調整的視座が欠けてしまい、人の活動を正確に描こうとすると、すべての場合が描けているのかという問題にあたってしまう。その結果、多くの業務プロセスモデルでは、人の活動ではなく、システムの仕様(もちろん、固定化されたものである)を描いてしまっている。活動の本質は”変化すること”であり、すべての活動をそのまま(タスクの視点で)描くことは非常に困難なのである。

さらにKeenは続けて「調整は言語に依り、言語は要求と約束に依る」と述べている。技術は「客観的法則性の意識的適用」であると定義
されるように、言語化することによって、技術であるプロセスを目的的に意識することができるようになる。また、プロセスの中でのコミュニケーションは、「その人が果たすべき役割に対する期待によって変わってくる」ものである。つまり、プロセスを描くというもうひとつの側面は、プロセスを言語化するということである。多くのモデル化手法がそのノーテーションの説明にほとんどのページを割いているが、重要なことは、プロセスを言語化する際の明確な指針、視点の置きかたであり、ノーテーションは、極論を言えば”実はどうでもよいこと”なのである。

 

yasushi_tanaka

有限会社ケイプラス・ソリューションズ代表,東京工業大学 特任准教授,大阪芸術大学 客員教授,奈良先端科学技術大学院大学 非常勤講師,博士(工学),CMM正式リードアセッサー(非更新 笑)

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